kml: 山中俊治の「デザインの骨格」 - 愛のインボリュート・ギア 歯車というと、多くの人は三角のとんがりを円周に沿って刻み付けた、いわゆるギザギザの円を思い浮かべるでしょう。しかし実を言うと、私た
kml: 山中俊治の「デザインの骨格」 - 愛のインボリュート・ギア 歯車というと、多くの人は三角のとんがりを円周に沿って刻み付けた、いわゆるギザギザの円を思い浮かべるでしょう。しかし実を言うと、私たちの身の回りによく使われている歯車のほとんどはそうなっていない。歯車を三角の歯で作ると、ちょっとした不都合があるのです。 二つの歯車のお互いの歯が三角だとしましょう。まっすぐ向き合っている時は斜面と斜面がぴったり合っているので問題ありません。しかし、歯車が動いて離れて行くときに、その尖った先端が他方の歯の斜面をこすります。歯と歯が出会うときも同じです。少し引っ掻くだけなのですが、時計の歯車のように毎日何百回も出会い続けたり、エンジンのように一分間に何千回も出会う歯車では、お互いに少しずつ削り合って、徐々に大きな損傷になります。 そしていつの間にか隙間ができて、ごつごつと衝突するようになり、ますますお互いを傷つけ合って壊れてしまいます。毎日の小さな衝突が、積もりに積もって、破局に向かうのです。 こうしたことを防ぐために、歯車には数学で求められた特殊な形が与えられています。歯の斜面にインボリュート曲線というカーブが使われているのです。このカーブをギアに用いると、それぞれの歯がお互いに接するように出会い、転がるようにかみ合うので全く滑りが生じません。 二つのインボリュート曲線は、さりげなく出会い、ずれを生じることなく寄り添い、傷つけ合うこともなく離れて行きます。なんだか都合のいいラブソングのようですが。 現在、工業製品に使われている歯車のほとんどは、このインボリュート歯車です。この形が実用化されたのは19世紀の半ば。150年以上たった今も、私たちの身の回りのあちこちで、美しい出会いを作り続けています。 -- source link