Overkill / The Grinding Wheel スラッシュメタルとは何であるか?これはプレイヤーもリスナーもそれぞれパーソナルなメソッドを持っているだろう。故に、ある音源やライブを一聴して
Overkill / The Grinding Wheel スラッシュメタルとは何であるか?これはプレイヤーもリスナーもそれぞれパーソナルなメソッドを持っているだろう。故に、ある音源やライブを一聴して「これはスラッシュだ」「いやスラッシュじゃない」みたいな論議は様々なバンドで勃発する。まぁ、これはスラッシュメタルに限定した話ではないのだが、突出したスティーロはシーンに与えたインパクトが強い分、受け手の原体験がマイルールとなり、人によってはそれこそが全てであり絶対だとなりがちである。だが、人に押しつけない限りは個人の自由だ。なので、そういう前提で話を進めたいと思う。 私は原体験期から現在まで“スラッシュメタルは無駄の美学である”と勝手に提唱してきた。無駄に速い、無駄に展開し無駄に突発的なフィルが入る、無駄に凝ったリフが微妙な変化を繰り返しながら疾走する。無駄に難しく演奏が追いつかない……などだ。そして、スラッシュメタルはその起源にパンク/ハードコアがある以上、あまりにも理路整然としていてはいけない。歌を軸に置いて美しく起承転結する……それではただのヘヴィメタルだ。スラッシュメタルはリフ・ミュージックであり、それは即ちリズム・ミュージックである。そして、全ての要素がアグレッションに収束する。所謂一般的なヘヴィメタル楽曲にはあまり必要ない無駄、無駄に無駄を重ね加味されるアグレッションが生むカタルシスこそがスラッシュメタルの醍醐味なのだ。 前置きが長くなったが、Overkillの立脚点において重要な要素にパンクがあるのはあのカヴァー曲を知らずとも明白だ。そして、同郷でファミリーツリーにも関わるAnthraxと同じく、しっかりとした歌唱が可能なハイトーン・ヴォーカルを有するが故にパワーメタル的な側面も持っている。だが、この2つのバンドが私にとって揺るぎなく“スラッシュメタル”そのものであるのは、先に記した無駄とリズムに飽くなき挑戦と強い拘りがあるからだ。更にこの2組はニューヨーク出身故か、独特なアーバン感……夜中の街並み、路地裏の冷たいアスファルト……そういったムードが(全てではないが)楽曲を支配している。故に、所謂ヘヴィメタル/パワーメタルのバンドたちのような大仰さを感じないのだ。 そんな彼らが2010年にリリースした『Ironbound』は、近年のOverkillにおいてマスターピースと言って過言ではない凄まじいアルバムであった。が故に、それを超える作品をここ数作で世に送り出すことは叶わなかったと私個人は思っている。彼らの作品は最盛期の1980年代後半から90年代前半までのメジャー初期〜中期のものが最もアイデア豊富で、唯一無二の閃き優先なアレンジが冴え渡る圧倒的なクオリティを誇っていたと私は思っているのだが、93年の『I Here Black』以降は彼らのバックボーンの一つであるBlack Sabbathからの影響を過剰に加速させ、以降は極端に重いアルバムや速い曲や重い曲がバランス良く組み込まれたアルバムを積み重ね、曲単位で言えばメジャー中期の頃のような凡人には思いつかない奇抜なアレンジのものも存在し、今現在もライブで重要な役割を果たすキラーなものもあったが、彼らの偉大なキャリアの中で考えると決して名盤と呼ばれるまでのトータルクオリティを誇る作品は、先の『Ironbound』まで現れなかったと私自身は思っている。 『Ironbound』は言わずもがな名盤である。しかし、Overkillにおいてはかなりストレートな作風にも思える。故に、同じ路線に近い以降の作品が曲によっては更にストレートな方向性のものであったため、若干似たり寄ったりな印象を否めなかった(それでも駄作と言われるほどの作品が彼らの歴史において皆無なのは驚愕なのだが……)。 しかし、2017年遂に彼らは新たなレベルへ突入する。新作、『The Grinding Wheel』の登場である。Overkillをあまり好き好んで聴かない方からすれば、彼らの新作も旧作も『同じじゃん』と思うかもしれない。しかし、長年彼らの作品を聴いてきたメタルヘッズならば、このアルバムを今までとほぼ同じだとは思わないだろう。一曲目からラストまで、彼らの最盛期作品のような良い意味で小賢しいぐらいのフックに富んだアレンジが随所に盛り込まれた、練りに練られた楽曲が連続する。つまり、“無駄の美学”のオンパレードである。しかも、『Ironbound』以降のヴァイブスも見事に昇華され、微妙に可変しながら時に冷酷に切り刻み、時に高速移動する爬虫類の如く這い回るギターリフは完全に90年代のヴァイブスである。NWOBHM、パンク、ロックンロール、ドゥーム等々、バックボーンを見事にスラッシュ/パワーメタルに溶け込ませる手腕は相変わらず見事であるが、近年はそれが曲によってはアレンジに止まらずストレートに出過ぎていた感があった。しかし、本作はあくまで要素であって真はブレていない。そして、嬉しいことに最盛期のアルバム後半の恒例的なものであった大作主義的な楽曲もあり、勿論彼ら固有のスキルと言っても過言ではない、あの(主にD.D. ヴァーニによる)『いい感じに気の抜けた掛け声的なコーラス』もバッチリとフィーチャーされている。兎に角、今作におけるリフ、リズムや展開における細やかなアレンジはここ数作が遠く及ばないものであり、アイデアの宝庫と言わざるを得ない。1982年結成のベテランバンドがここまでフレッシュなアイデアに溢れた新作アルバムをリリースしたことは本当に驚愕であるし、もっと話題になって良いと思う。一先ず、素晴らしいアルバムをリリースしてくれたOverkillには多大なリスペクトを。そして、この熱がある今年の早い段階で来日公演が実現することを祈るばかりだ。 -- source link
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